ある放火事件の被疑者供述の信用性鑑定 -心理の流れの混乱- (Statement assessment, Forensic interview関連記事)
ある放火事件とは 自らが作業員として働く建造中マンンションに放火した疑いで、西条隆男氏(仮名)が逮捕された。逮捕直後の取調べで自白するものの、母親との接見直後の取調べで否認に転じた。しかし再度犯行を認め、捜査は終了した。公判で再度の否認に転じ、その後一審、二審を通じて否認を貫いた。 鑑定依頼 最高裁に上告の際、弁護団より西条氏の供述の信用性に関する鑑定依頼を受けた。 鑑定の内容 西条氏は最初に否認に転じた際、事件当日のアリバイを供述していた。この日彼は通常の作業に従事しており、この日の業務の一部始終が語られていた。これを浜田寿美男の「心理の流れ」という観点で見ると、行為とそれに付随する認知や感情が非常に整合的であった。その一方、それ以外の自白供述は整合性が低く、行為と認知、感情がちぐはぐであった。そこで「心理の流れ」に着目した鑑定を実行することにした。公判廷での供述は否認のみが主張されているので分析資料として利用できなかった。 なおこの鑑定は、2006年の第7回法と心理学会大会(法政大学)で発表されている。以下にそれを転載することとする。 ある放
甲山事件目撃証言の信用性鑑定 -繰り返されるコミュニケーションパタン-(Statement assessment, Forensic interview関連記事)
甲山事件とは 甲山事件は1974年3月に、知的障害児収容施設甲山学園で起こった「殺人」事件です。なぜカギカッコがついているかというと、これが本当に事件なのかが判然としないからです。被告人の弁護団は、園児が遊んでいるときに起こった事故ではないかと推測しています。浜田先生の著書「証言台の子どもたち」(日本評論社)にも同様の記載があります。二人の園児が、学園寮裏手の浄化槽から遺体で発見されます。このうちの一人を殺害したとの容疑で、学園保母の山田(当時は旧姓・澤崎)悦子さんが逮捕されますが、神戸地検は証拠不十分を理由に不起訴処分としました。山田さんは現在も、この事件にかかわる冤罪被害者であることを公言されている(指宿ら(編)「シリーズ刑事司法を考える 第0巻 刑事司法への問い」にも寄稿されています。山田悦子「被告人席に座らされて」)ため、ここでも本名表示させていただきます。 しかし児童の遺族の申し立てを受け、神戸検察審査会は1976年10月、不起訴不相当の議決を行ない、神戸地検は捜査を再開します。二人の園児の死去から3年後、元園児の正岡利博君(仮名)の