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我々はいかにして供述の信用性鑑定に着手することになったのか

 

東京自白研究会

 1992年頃だと思いますが、関東の大学教員、大学院生が中心になって、自白や証言の信用性をめぐる研究と実践を行なう組織が結成されました。「東京自白研究会」を名乗るメンバーは、佐々木正人氏(東京大学)、原聰氏(駿河台大学)、大橋靖史氏(淑徳大学)、高木光太郎氏(青山学院大学)、松島恵介氏(龍谷大学)、後安美紀氏、そして私だったと記憶しています(所属は2017年3月時点)。

 この前後、上記メンバーは記憶という現象に関心を持ちつつ、従来の研究に飽き足らないものを感じていました。折も折、心理学では日常記憶研究が流行していました。その影響は多分にあったと思います。そんな動向を聞きつけたのが、浜田寿美男氏です。浜田氏はもともと発達心理学の専攻ですが、子供の証言が問題となった甲山事件に関与することになって以来、自白や証言への心理学的アプローチを独力で開発してきた方です。よって自白や証言の信用性が疑われる事件が起きると、いつも浜田氏へ依頼が行き、さすがの浜田氏(我々は彼の仕事ぶりに驚嘆し、冗談交じりに、浜田氏五つ子説を唱えていました)も手一杯の状態にあったようです。そこで、我々に誘いが来たのです。自白や証言も要するに記憶の話だから、ということでした。

 

記憶への新たな接近

 確かに記憶の問題なのですが、従来の心理学における記憶研究とは大きく違うところがありました。体験の有無の判定をしなければならないというところです。体験の有無は、心理学研究では実験者が設定する前提です。体験がある(何らかの学習をさせる)場合に、どういう条件を設定すると体験記憶がどのように想起されるか、あるいは体験がない場合でも、ある条件下では体験があるかのような錯認(虚偽記憶)が生じるといったようにです。裁判では、ある供述が体験由来なのか、そうでないのかが問題になります。体験の有無を前提にはできません。

 浜田氏も同様のところで戸惑ったと思います。しかし彼は、独自の方法で、難関を突破しようとしました。彼の方法を、我々は「浜田流供述分析」と呼び、しばしば使用させてもらいました。彼の方法の独自性は、体験や時間という概念の捉え直しにあると言ってよいと思います。このことと、彼の方法については、別の記事でお話ししたいと思います。

 

刑事事件へのかかわり

 浜田氏の方法に助けられながら、見よう見まねで刑事事件にかかわり始めました。被告人の弁護人からの依頼がほとんどでしたが、我々には党派性はなく、あくまで研究者としての客観性を担保するように努めました。これまで我々が東京自白研究会として関与した事件は、「高輪グリーンマンションホステス殺人事件」「三浦一美さん殴打事件」「足利事件」「甲山事件」「福井女子中学生殺人事件」「尼崎スナック狙撃事件」などです。これらのうちのいくつかは、別稿で紹介することもあると思います。

 これらの事件への関与後、我々は各々職を得て全国に散らばり、東京自白研究会としての活動は終息しています。しかし我々はそれぞれの立場で、自白や証言の信用性鑑定を仕事を続けています。私も、「広島港フェリー甲板長殺人事件」の被疑者供述、わいせつ行為の存否に関わる被害者供述や、放火事件の被疑者供述の信用性を鑑定しました。これらについても、別稿で紹介する機会があると思います。

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